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アリョーナとリザヴェータ

 投稿者:ねこ  投稿日:2011年 2月25日(金)15時58分58秒
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  アリョーナとリザヴェータは、ラスコーリニコフに殺害される異母姉妹。
そもそも主人公の青年は金貸し老女アリョーナだけを殺すつもりだった。
リザヴェータの方は、女主人公ソーニャの分身のような存在で、
物語の中ではイエス・キリストを体現しているともいえる。
ラスコーリニコフも、このリザヴェータに手を下す気は、まったくなかった。
ところが金貸し老女は、たいてい妹とともにいて、アパートでひとりきりに
なる機会がない。しかし、あるとき彼は街を歩いていて、次の夕方、
妹のリザヴェータが商人の夫婦に招待されるところを耳にしてしまう。
その時間は、金貸し老女は部屋で一人きりになるはずだ。
そう知った彼は、一度は断念した殺害を決行することにする。

このことで、ずっと、わからないことがあった。
『罪と罰』の研究書などでは、ラスコーリニコフの時間の聞き違いなどが、
あれこれと詮索されている。それはよしとして、もっと根本的な問題は、
なぜ作者は主人公の青年にアリョーナとリザヴェータの二人を同時に殺すように
仕向けたのか、ということだ。

『罪と罰』は世界最大の推理小説とも称される。
たしかに殺されたのがアリョーナ婆さんだけで、
あとは真犯人ラスコーリニコフが追いつめられていくだけの話なら、
推理小説の枠に収まる話となるだろう。
しかし、問題となるのは聖女リザヴェータの殺害だ。

彼女が招待される時間をラスコーリニコフが聞き違えたのなら、
それはそれでいい。種明かしは研究者に任せよう。
問題は、作者が主人公にリザヴェータへの殺害も背負わせたということだ。

そもそも彼は金貸し婆さんだけを殺すつもりだった。
しかし、彼の意図したとおりには事は運ばず、
予定外の聖女殺しが付け加わることになった。
それは物語の表面をなぞれば偶然の出来事だが、
作者の意図を探るなら、ある種の必然を意味しているのではないだろうか。
ソーニャは「だれが生きて、だれが死んでよいかなんて、だれが決められるの」
と問いかける。

僕たちはアリョーナでもリザヴェータでもない。
金の計算ばかりしているときもあれば、そんな日暮にため息をついて、
聖なる世界を夢見たりもする。
つまり、僕たちはアリョーナでもあるし、リザヴェータでもある。

ラスコーリニコフは金貸し婆さんだけを殺そうとした。
しかし、そんなことが可能なのだろうか。
アリョーナを殺すということは、実はリザヴェータも一緒に殺してしまう
ことではないだろうか。主人公の意図をこえた結果をもたらした殺害事件。
この物語の構成には、そのような問いが込められているような気がする。
 
 
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